「中学生ボカロP」をマーケティング視点で考えてみる
ボカロPがあえて作品のタイトル等に「中学生」と明言することの是非について、当事者やそれ以外のクリエイター・視聴者を巻き込んで話題になることがあります。
「本人の好きにすればいい」というのが私個人の意見ですが、特に若い方にとって「好きにする」にしても必要な前提知識を得る機会が少なく、正しい判断が出来ないのではないかと思いました。
そこで本記事では、クリエイターが中学生であることを明言することの効果について、マーケティング視点で考えてみます。
中学生にもわかるよう平易な文章にしていますので、ボカロPに限らず中学生クリエーターの方は是非読んでみてください。
また「中学生」を別の属性に置き換えればそのまま成り立つ内容になっていますので、クリエイターが作品タイトル等で自身の属性を明言するかどうかを考える際の参考にしていただければと思います。
クリエイターの目的
基本的にクリエイターは自身の作品を出来るだけ多くの人に気に入ってもらいたいと考えているはずです。
そのために必要なステップは以下の3つです。
- 作品を見つけてもらう
- 作品を見てもらう
- 作品を気に入ってもらう
以降ではこの3つのステップごとに、「中学生」を明言することの効果を考えてみます。
※実際には4つ目の「継続(飽きられない)」という重要なステップもあるのですが、今回はスコープ外とします。
1.見つけてもらう
まずは出来るだけ多くの人に見つけてもらう必要があります。
すでにファンとしてフォローしてくれている方を除けば、動画サイトの検索結果やSNSで見つけてもらうことになります。
検索結果やSNSで表示された回数を「インプレッション数」と言います。
インプレッション数は、タイトル・タグ・説明文などを適切に設定することで増やすことができます。例えばタイトルやタグに「初音ミク」を入れることで、初音ミクの曲を中心に聞いているリスナーの検索結果に表示される可能性が上がりますよね。
では「中学生」を名乗ることがインプレッション数に与える影響を考えてみます。
タイトル・タグ・説明文に「中学生」と入れることで、中学生クリエイターを探す人に見つけてもらいやすくなります。
そのためインプレッション数を増やす効果が期待できるでしょう。「中学生クリエイターを探す人」は
- 仲間を探している中学生のクリエイター
- 若い才能を探しているプロデューサー
あたりでしょうか。これだけ見ると悪く無さそうですが、属性によっては悪いインプレッションを増やす(例:「女子高生」を名乗るとロリコンが沸く等)可能性もあるため、メリット/デメリットを考慮する必要があるでしょう。
実際にはコメントやSNSでの反応を見ながら、好ましくないインプレッションが多いようであれば明言を避けることも検討すべきかもしれません。
2.作品を見てもらう
検索結果やSNSで作品を見つけてもらったら、次は実際に見てもらう必要があります。
動画であれば、動画サイトやSNSでサムネイルをクリックし、再生ボタンを押してもらうステップです。
検索結果やSNSで表示された回数に対して実際にクリック・再生してもらえた割合を「CTR(Click Through Rate)」と言います。
例えば1000回表示されて100回クリックしてもらえたら、CTRは100/1000=10%です。
CTRはほぼタイトルとサムネイルで決まると言ってよいでしょう。
動画サイトやSNSで表示される情報はそれだけだからです。
皆さんが動画サイトやSNSでクリックする動画がどんなものか考えてみれば、腑に落ちるでしょう。
ではタイトルまたはサムネイルに「中学生」を明記することがCTRに与える影響を考えてみます。
まず、検索の段階で中学生クリエイター目当てでインプレッションを獲得した人については、効果は無いでしょう。
したがって効果があるとすれば、それ以外の人です。
例えば「ボカロ」で検索した結果「中学生」というキーワードに惹かれる人がいればCTRが上がります。「中学生なのにボカロPなんてすごいな」と思ってクリックしてくれる人が多ければ効果がありそうですね。
一方でCTRを下げる可能性も考慮が必要です。
例えば「わざわざ中学生を名乗ることでクオリティが低いことの言い訳をしている(=保険をかけている)」と捉え、スルーしてしまう人がいるかもしれません。
この点に関しては絶対的な正解は無いため、試行錯誤が必要です。
youtubeであればインプレッションのクリック率(=CTR)がわかりますし、Twitterであればインプレッション数・メディアの再生数やリンクのクリック数からCTRが計算できますので、どのようなタイトルであればCTRが高くなるか、試行錯誤していくと良いでしょう。
3.作品を気に入ってもらう
晴れて作品を見てもらうことが出来たら、いよいよその作品を気に入ってもらえるかどうかの土俵に上がることになります。
端的に言えば作品の「評価」です。定量的に測れるものとしては
- 視聴継続率(=最後まで見てくれたか)
- 高評価数(率)
- チャンネル登録数やフォロー数
などが挙げられるでしょう。youtubeではアナリティクスを使っていずれも作品単位で確認できます。
それでは、作品の評価に対して「中学生」を明言することの影響を考えてみます。
作品の評価は視聴者の好みや作品のクオリティによって決まりますが、好みについては千差万別で議論が難しいため、クオリティに絞って考えます。
視聴者が見る前に想像したものよりもクオリティが高ければ高評価、そうでなければスルー or 低評価という、とても分かりやすい結果になるでしょう。
粗削りだけど今後の成長に期待したい、ということでフォローしてもらえる可能性もあります。
常識的に考えて中学生に対する評価基準はそれ以上の年齢層のクリエイターより甘くなる視聴者が多いでしょうから、視聴まで漕ぎ着ければ、「中学生」という属性を明記したことによるマイナスの影響は無いのではないかと思います。
まとめ
クリエイターが作品タイトルやタグ等で「中学生」を明言することについて、マーケティング視点で3つのステップに分けて考えてみました。
- 作品を見つけてもらえる回数(=インプレッション数)は増えそう
※ただし好ましくない層のインプレッションが増えていないかは要注意 - 作品を見てもらえる確率(=CTR)の増減は一概には言えないので試行錯誤が必要
→アナリティクス等を活用しよう - 作品を見てもらえさえすれば、気に入ってもらえる確率は上がりそう
中学生といえどクリエイターとして活動していく以上は、安易に他人の意見に一喜一憂したり流されたりせず、信念と事実分析に基づいて活動指針を決めていく必要があるでしょう。
この記事が若いクリエイターの参考になれば幸いです。